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名古屋地方裁判所 昭和59年(モ)148号 判決 1984年6月22日

申立人

金森正倢

内山繁治

藤枝徳男

紫波正國

松浦裕

右申立人五名訴訟代理人

滝沢孝行

坂本哲耶

被申立人

政秀寺

右代表者

佐藤祖嶽

被申立人訴訟代理人

鈴木匡

鈴木和明

吉田徹

主文

一  本件申立を却下する。

二  訴訟費用は申立人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  申立の趣旨

1  申立人らと被申立人との間の名古屋地方裁判所昭和五八年(ヨ)第九三五号仮処分命令申請事件について、同裁判所が昭和五八年六月二四日なした仮処分決定は、これを取消す。

2  訴訟費用は被申立人の負担とする。

二  申立の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  申立の原因

1  被申立人は申立人らを債務者として申立外株式会社名古屋浄苑(以下名古屋浄苑という。)の株主総会における議決権行使禁止の仮処分を申請し(名古屋地方裁判所昭和五八年(ヨ)第九三五号事件)、同年六月一四日、その旨の仮処分決定(以下本件仮処分という。)を得た。

2  同裁判所は申立人らの申立にかかる同裁判所昭和五八年(モ)第五〇二六号事件により、同年八月一三日付決定をもつて被申立人に対し右決定送達の日から一四日以内に本案訴訟を提起すべき旨命じ、右決定は同年八月一五日被申立人に送達された。

3  被申立人は右訴提起の期間を徒過した。

よつて本件仮処分の取消を求める。

二  申立の原因に対する答弁

申立の原因1、2の事実は認めるが、被申立人は既に本案訴訟を提起ずみである。即ち、被申立人は名古屋地方裁判所に対し、昭和五七年七月一五日、本件仮処分の対象である申立人ら名義の株式を含む名古屋浄苑発行の新株式(発行株数二一〇〇〇株、発行価額一株につき一〇〇〇円、払込期日昭和五七年五月二二日)の発行不存在確認等を求める訴訟を右名古屋浄苑を被告として提起した(名古屋地方裁判所昭和五七年(ワ)第二二六四号新株発行不存在確認等請求事件)。

よつて、本件申立は失当である。

理由

一申立の原因1(本件仮処分の存在)、同2(起訴命令の送達)の各事実は当事者間に争いがない。

二被申立人から名古屋地方裁判所昭和五七年(ワ)第二二六四号新株発行不存在確認等請求事件が提起されていることは当裁判所に顕著な事実である。そこで右訴訟をもつて、本件仮処分の本案訴訟と解しうるか否かについて判断する。

本件仮処分申請事件の記録によれば、本件仮処分は新株発行不存在確認ないし無効請求権を被保全権利とし、申立人ら名義の新株式の効力がないことを前提とした議決権行使禁止の仮処分であることは明らかである。そして新株の発行に無効原因があるとしてこの場合、本案訴訟で申立人ら名義の株式の効力を争うには、商法所定の新株発行無効の訴によらねばならず、右訴においては会社のみに被告適格が認められている。その結果、必然的に本件仮処分の債務者と右訴における被告とが異なることになるが、右訴が本件仮処分の本案にあたるか否かについては、形式的に当事者の同一性のみを基準として判断すべきではなく、仮処分を受けた者のいわば浮動状態にある地位を右訴訟によつて解消せしめることができるかという仮処分における本案訴訟の趣旨から実質的に考えなければならないところ、新株発行無効の訴はいわゆる形成訴訟として被申立人が勝訴した場合には確定判決の効力が申立人らに及び(対世的効力)、新株式の無効を争い得なくなる反面、申立人らは右訴訟に共同訴訟的補助参加することが可能と解され、また、被申立人敗訴の場合には、対世的効力は生じないが、申立人らは事情変更による仮処分の取消を求めることができ、いずれにせよ、申立人らは右新株発行無効の訴を通じて自己の地位の浮動状態を解消せしめることができるのである。従つて、既に右新株発行無効の訴を含む被申立人の訴提起がなされている以上、右の訴をもつて本件仮処分の本案訴訟と解するのが相当である。

三以上の次第で申立人らの本件申立は理由がないのでこれを却下することとし、訴訟費用につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(横山義夫 満田明彦 多和田隆史)

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